その連絡は、ある日突然届きました。件名は、「Evernote ベーシックへの変更について」。なんだろう?と思って開いてみると、思いもよらない衝撃的な内容でした。
"今後、Evernote ベーシックで利用可能な端末の数を 2 台までに変更させていただくことになりました。例えばパソコン 1 台とスマートフォン 1 台、パソコン 2 台、あるいはスマートフォン 1 台とタブレット 1 台といった具合です。お客様は現在、2 台よりも多い端末で Evernote をお使いいただいております。この仕様変更には 30 日の移行期間を設けさせていただきますので、お手数をおかけいたしますが、ご利用端末数の調整をお願いいたします。なお、Evernote プラスまたは Evernote プレミアムの場合、引き続き端末数の上限なくご利用いただくことができますのでご検討ください。"
個人的には、クラウドサービスで重視するところは、NIST(米国国立標準技術研究所)によるクラウドコンピューティングの定義で言うところの、Broad network access 、つまり、
"コンピューティング能力は、ネットワークを通じて利用可能で、標準的な仕組みで接続可能であり、そのことにより、様々なシンおよびシッククライアントプラットフォーム(例えばモバイルフォン、タブレット、ラップトップコンピュータ、ワークステーション)からの利用を可能とする。"ってところで、インターネットにつながってさえいれば、どんな端末からでもサービスを受けることができ、情報にアクセスできることがポイントなのに、それがこのクラウド全盛の世の中で、老舗のクラウドサービスが利用可能端末を2台に絞るって、さすがに少すぎでしょうと。
もちろん、無料版のベーシックだから2台に制限されるのであって、有料版のプラスやプレミアムであれば今まで通り使えるのもわかってはいるんですが、使えるものは無料で使い倒したい性格なので、これを気に有償版にするかって言われたら、当然そんな気分にはなれなくて、どちらかと言うと、最近そこまで使ってなかったし、これを気に、Evernote を使うのをやめるか…、となってしまったのです。普段のEvernoteの利用端末を考えて見るに、メインに使っている仕事用PC、自宅PC、Android と iPhone の4台なので、まぁ、5台までに絞るとかであれば、ここまでの衝撃はなかったと思います。あるいは、すでにサインアップしている人は今まで通り使えて、これからサインアップする人から2台に制限する、などの条件にするとか。
Gigazineでは、Evernoteが1.5倍に値上げ&無料版の同期端末を2台までに制限するという「改悪」を実施と、「改悪」と言い切っちゃってるし…。でも実際のところ、「改悪」と感じた人も多かったはず。がっかりしたことは、間違いないですよね。
Evernoteのユーザー数は、結構減ってしまうのでは?
同じことを考えた人は結構いたみたいで、「Evernote さよなら」で検索すると、結構色んなブログが出てきます。やはり、このタイミングで Evernote にさよならした人が多い模様。そりゃまぁ、そうですよね…。移行先のアプリは、データのインポートツールのあるOneNote が多かったようで、結構ブログが見つかりました。
- Evernoteの改定で代替アプリを探してる?それなら『OneNote』がオススメですよッ | かみあぷiPhoneひとすじ! かみあぷ
- Evernoteさんさようなら今までありがとう、EvernoteからOneNoteへの切り替えを決断しました | 蛯
- さよならEvernote、OneNoteへ移行したよ | たまには書いてみる(ごくたまに書くよ)
データ別Evernoteの後継に選んだサービス
全部きれいに一つのサービスに移行というのも考えたのですが、すでに一部は先行して切り替えてた部分もあったので、主に使っていた機能別に、以下のような形で移行しました。
メモの機能は、Google Keep + Google Drive へ
Evernoteで一番利用シーンが多いのは、当然のごとく色んなメモを書きなぐる部分だと思うのですが、ここは主に Google Keep に移行しました。
Google Keep も2013年3月のリリースから少しずつ機能のアップデートを重ねていて、今年の4月にはchromeの拡張機能で、Webページを1クリックで Google Keep に保存できるようになったこともあり、ほぼメモは Google Keep で問題なく使えてます。Google Map のローカルガイドの特典で1TBの容量を無料で使えているので、PDFや画像データなんかは、片っ端から Google Drive に放り込んでます。
Evernote Food は Google Map の「自分の投稿」機能へ
実は Evernote と言えば Food だろう、というくらい、Evernote Food は良く使っていたアプリでした。それが、2015年9月30日を以ってのサポート終了…。正直、Evernote から心が離れたのは、Evernote Food が終了すると決まったこのタイミングが一番大きかったです。
当時も話題になってましたが、代替アプリをどうするか?ってのは、ぴったりなアプリが無いこともあって、meal とか色々と試行錯誤で試してみたんですがどれもイマイチしっくり来ず、最終的にはタイミングよく2015年11月にGoogle Map のローカルガイドの特典が見直されたこともあり、Google Map の「自分の投稿」機能に移行しました。
当初は、投稿内容を公開することに若干の心理的な抵抗もなくはなかったのですが、レベル4のローカルガイドになると Google Drive に1TBの容量がついてくる特典に惹かれて、切り替えを決めました。おかげさまで今は、レベル5のローカルガイドになってますよ。
Skitch は Awosome Snapshot へ
直接的にEvernoteの機能というわけではないのですが、Skitch もよく使うアプリでしたが、これまた2016年1月22日以降のサポートと新規ダウンロードの終了をもって、イマイチ使えなくなってしまいました。
Evernote Food ほどではないですが、便利に使っていたアプリだったので、残念無念また来週、ってことで、Awosome Snapshot という Chrome の拡張機能に移行しました。そもそも普段使いのPCをchromebookに切り替えたこともあり、脱アプリ/脱ソフトウェアってことで、極力SaaSのサービスやブラウザの拡張機能への切り替えを進めていたこともあり、画像に Skitch とほぼ同等レベルで注釈をつけられる Awosome Snapshot に落ち着きました。
今のところ、それぞれ快適に使えてます。あと、すでにEvernoteに入っていて、そんなに重要でもないデータの一部は、閲覧専用な形でもう少しEvernoteのままを使う予定ではいます。
気になったのでEvernoteの歴史を振り返ってみる
まず、そもそも論として、実は1ユーザーとして Evernote には結構期待してました。サービスがリリースされた当初は、他にはない便利な機能に衝撃を受けましたし、何より元CEOのフィル・リービン氏が掲げていた「自社を今後100年続く企業にしたい」という理念は、シリコンバレー企業には珍しいマインドで、応援したいな、と思っていたのです。(じゃあ何で有料版の機能を使ってないんだ、という突っ込みは置いておいて…)
そこで気になったので、Evernoteに関する年表的なのをざっくりまとめると、
- 2005年??月 会社設立
- 2008年06月 ウェブサービスのβ版提供開始
- 2010年03月 Evernote 日本語版サービス提供開始
- 2010年06月 初の海外法人となる日本法人を設立
- 2010年11月 ユーザー数が500万人を突破
- 2011年07月 5000万ドルの資金調達を実施
- 2011年08月 Skitch を買収して無償提供開始
- 2011年12月 Evernote Food / Evernote Hello リリース
- 2012年10月 グッドデザイン賞を受賞
- 2012年12月 Evernote Business のサービス提供開始
- 2013年04月 Evernote アンバサダープログラムの開始
- 2013年09月 Evernote Market リリース
- 2014年05月 ユーザー数が1億人を突破
- 2014年07月 NTTドコモと Evernote Business の販売代理店契約を締結
- 2014年11月 日本経済新聞社から2000万ドルの出資とコンテンツ自動配信サービスでの業務提携を発表
- 2015年01月 組織再編のために世界的規模で従業員の解雇を実施
- 2015年02月 Evernote Hello サポート終了
- 2015年07月 CEOがフィル・リービンからクリス・オニールに交代
- 2015年09月 Evernote Food サポート終了
- 2015年10月 従業員の2割をレイオフ、3ヶ所の拠点を閉鎖
- 2016年01月 Skitch, Clearly のサポート終了
- 2016年02月 Evernote Market の閉鎖(メーカーによる直販に移行)
- 2016年06月 有料版の料金を1.5倍に値上げし、無料版ユーザーの同期可能な端末が2台に制限 ←今ここ
- 2016年07月 ユーザー数が2億人を突破する見込み?
(個人的に関心の高いものだけをピックアップしているので、すべての出来事が載っているわけではない点、ご了承ください)
改めてこうして眺めてみると、Evernoteの栄枯盛衰がよくわかりますね。
日本語でのサービスを開始してからというもの、2011年から2013年にかけて、当時大流行していたライフハックやライフログの必須ツールとして意識高い系の人達からの圧倒的な支持を受けてサービスを拡充していく様子がわかりますね。ネタフルのコグレマサト氏(@kogure)やごりゅご.comの五藤隆介氏(@goryugo)なんかは、いまだにEvernoteの記事を量産していて、ためになる使い方を勉強させてもらうとともに、Evernoteに対する深い愛情に、妙な共感を覚えていたわけです。
2014年がまさにピークと言える年で、ユーザー数が1億人を超えると同時に、NTTドコモや日経新聞との提携を大型の発表が続きます。が、この頃から経営は結構苦しかったのではないでしょうか。2015年に入った途端に、状況が激変します。従業員の解雇に始まり、各種サービスの終了、CEOの交代劇、料金の値上げと、あれあれどうしたと、1ユーザーとして企業の存続が心配になるレベルで、いろんな事が起きてます。
これらの記事が、状況を端的に物語っていますね。
そんな中、2014年の売上が3600万ドル前後(1ドル100円換算で36億円)のEvernoteに、23億円も突っ込んでしまった日本経済新聞社だけは、CEOの交代劇をエバーノート、黒字化へ道筋 プロ経営者の大なた | 日本経済新聞などの記事で、頑張ってポジティブな情報を出しているのが印象的です。いつも、続きは有料版で、とうるさい日経新聞もEvernoteの記事に関しては、無料で全部見せてくれるのは面白いところです。
個人的には、Evernote Food や Skitch は割りとヘビーに使ってたし、Clearly もスクラップにはなくてはならない機能だったし、Evernote Market も世間で言われるほど狙いは悪くないと思っていて、モレスキンのノートや付箋、ScanSnap はもっと売れても良さそうな気がしていました。
が、やっぱり本業のEvernoteの有料ユーザーが少なかったんでしょうね。
Evernoteの今後の打ち手を勝手に考察してみる
Evernote の価格プランの改定についての中で、
"私たちの目標は、長期的に Evernote を改良し続けることです。ユーザのみなさんの要望に応える新機能も随時実装しながら、主要製品をよりパワフルに、直感的に使えるようにすることに引き続き投資してまいります。一方で、それを実行するためにはたくさんの労力と時間、そしてお金が必要になります。"
と書いてあります。しかし、この書きっぷりからは、とある一つのメッセージしか読み取れません。そう、
"どうしていいかはまだ何もわかってないけど、とにかくがんばってみるよ"と。
一応、Evernote クリス・オニールCEOが来日講演の記事を見るに、Evernoteのビジネス戦略として、
- ユーザに耳を傾け、エンゲージメントを高める
- 個人向けに加え、チーム向けに進化する
- 業務・法人向け市場の可能性を引き出す
- グローバル市場の可能性を開拓する
- 連携パートナーシップを追求する
- AI・機械学習など破壊的技術を利用する
の6点をあげていますが、まだ方向性がぼやっとした状態のようなので、誠に勝手ながら、Evernoteの1ユーザーとして、今後Evernoteがどう進化するべきなのか、勝手に打ち手を考えてみます。
象は決して忘れない。それ以上に、象は賢くあるべし
Evernoteは創立8周年を記念したブログポストで、「みなさんが Evernote に入れるデータはこの先もずっと残ることをお約束します。」と、ユーザーへの約束をしています。データを確実に保存することは、社名の由来であり、「Elephants never forget.」ということわざをモチーフにしたロゴにも現れているように、Evernoteという企業の根幹をなす重要なミッションであると言えるので、これはサービスを受ける側としても当然のように前提として考えている部分です。
しかし、これからのEvernoteを考える上では、もう一つ重要な事実があることに思いを巡らせなければなりません。それは、"象は賢い"という事実です。
Evernoteがライフハックブームに乗ってあれだけ使われるようになった理由、それは、ノートブックとタグによって、データの立体的に整理・分類ができるからだと思います。
Evernote を使いはじめると必ず最初にぶち当たる壁、それがノートブックとタグの使い方で、いろんな人がいろんな使い方をここぞとばかりに「これぞ究極のライフハック」っ的な感じで披露していて、それらを参考に迷いながらに自分なりのノートブックとタグの使い方を体得できると、今までのフォルダ分けによる情報整理とは全く違った、極めて立体的な情報の整理ができるようなるという、この1点において、Evernoteは大変便利なツールでした。
しかしその反面、味をしめてEvernoteに何でもかんでもデータを放り込むようになると、次はある問題にぶち当たるようになります。それは、ためているデータそのものの価値がどんどん劣化してくることです。お、これは良記事、と思ってEvernoteに保存しても、数年後はなんの意味もない記事になっていたりするわけです。そうすると、価値のある情報にスムーズにアクセスするために、膨大な時間と労力をかけて、ノートブックやタグのメンテナンスを行う必要が出てくる、という極めて本末転倒な状況が発生してしまうのです。
ここは、今話題の人工知能や機械学習を使って、おそらく容易に解決できるはずです。ノートの中身を分析して、その人独自のタグ付けのルールを学習し、新しいノートができた時に最適なノートブックを勝手に選択してくれて、自動でタグ付けを行う、あるいはつけるべきタグをレコメンドしてくれる、これだけで特にEvernoteのヘビーユーザーであればあるほど、泣いて喜ぶはずです。ここは、ビジネス戦略にも、「AI・機械学習など破壊的技術の利用」と謳ってあるので、Evernote自身も認識していると思うのです。
Gmail はメールの内容を自動で分析して迷惑メール判定をしてくれているし、Google Photo では人の顔すら自動で分類して、「この写真に写っているのはこの人ですか?」とレコメンドしてくれる今の世の中で、タグのレコメンドや、ユーザーにとってのノートの重要性判定が自動でできない訳はないのです。Evernote がこの先に目指す方向性、それは外部サービスとの連携性を良くするような小手先の対策ではなく、2億人近いユーザーが創りだした50億を超えるノートに溜まった膨大な知識や記憶を、賢く整理してユーザーにみせてあげることであるべきです。
実は、このブログを書いてて、この指摘と全く同じことを、2011年にしている人がいてびっくりしました。Evernote コミュニティリーダー(元のEvernote アンバサダー)でLifehacking.jpの堀正岳氏(@mehori)の象は羽ばたけるか。Evernoteの未来への漠然とした不安と期待 | Lifehacking.jpは必読です。
"頭の記憶なら、利用価値の低いものが判断の邪魔にならないように脳は自動的に忘却によって情報をキュレーションしてくれます。忘却は全てを洗い流す究極のキュレーションなのです。
しかし電子の脳であるEvernoteに対しては、何を除去するかを人間の側がノートブックやタグ、検索クエリーといった形で明示しないといけません。有用な情報に絞り込む手続きが、そもそも煩雑なのです。"
鋭い、指摘が鋭すぎる。そして何よりこの指摘をしているのが2011年の8月。ブログの冒頭の書き出しに、「本日から Evernote Trunk Conference に参加するためにサンフランシスコにきています。」と書いてあるので、もしこの時、元CEOのフィル・リービン氏が堀正岳氏の指摘に耳を方向け、きちんとその意味を理解していれば、今のEvernoteの状況になってなかった可能性は高いです。しかしまだ、これからでも遅くない。消して忘れず、そして賢い象になってもらいたいと切に願います。
賢い象は無駄に働かず、趣味に走るべし
新CEOのクリス・オニールになってからというもの、最近のEvernoteの動きは結構明確で、Food、Hello、Skitch、Clearly などのサービスをどんどん終了させる一方で、他のサービスとの連携を強化する方向に走ってます。直近でもEvernoteのブログをみると、
と、他のメジャーなサービスとの機能強化を目指していることが分かります。ここは、ビジネス戦略の「連携パートナーシップを追求する」という方針からの動きなのでしょうが、これはどう考えても逆効果な気がしてなりません。つまり、他のメジャーサービスにユーザーが移行してしまうのではないかという懸念です。実際のところ、Microsoftなんかは、EvernoteからOneNoteへのデータ移行ツールを公開していて、もうEvernoteを草刈り場としか見ていないような状況です。
そしてもう一つ、Evernote Business について、「業務・法人向け市場の可能性を引き出す」とまだ望みを捨ててないようですが、現状ここは恐らく、全く流行ってないんじゃないかと思うのです。
当初こそ、NTTドコモとの提携で鳴り物入りで大々的にエンタープライズ向けサービスとして展開を開始して、品川女子学院やコクヨなど導入事例で話題にあがる企業もあったようですが、その後はぱったり大型の導入事例の話は聞きません。Evernote Business の導入事例のページにも、未だに16社しか事例がないのが手痛い。全世界で2万社が導入と書いてありますが、いわゆる情報共有のためのコラボレーションツールという観点で見ると、Google Apps for Work や Office 365、Box なんかともろに競合しているため、すでに競合のツールを使っているけど、流行に乗り遅れるわけにも行かず話題のツールを試してもみたいので、とりあえず10アカウントで導入してみるか、という会社が多いのではないでしょうか…。
実際のところ、未だに大手キャリアではNTTドコモのみの取り扱いで、KDDIやソフトバンクが取り扱ってないところも気になりますし、Evernote Businessの代理店戦略も、今年の3月に法人向けクラウドサービス「Evernote Business」の国内における販売網を強化で発表されているように、地場で小回りのきく会社にコンサルティングとインテグレーションもお願いしてしまおう、という形にシフトしてきているようです。
色々な数字の詰めの甘さはあるとして、売上が36億円と数字が出ている2014年の時点を基準に本当にざっくりEvernoteの売上の中身を計算してみましょう。仮に2万社が全て10アカウントで契約していたとすると、1100円/月 x 12ヶ月 x 20000社 x 10アカウント = 26.4億円くらいです。2014年の売上36億円なので、残りの10億円くらいがBusinessではない有料版のユーザーからの売上です。価格改定前のプレミア4000円/年として計算すると、10億円 / 4000円 = 25万人となり、2014年5月に全ユーザー数が1億人突破なので、有料会員率が0.25%になります。うーん、これは確かに厳しい。ちなみに、最低5年は粘れ!その先に果実が。月額課金12サービス数値比較 | THE STARTUPを参考に考えると、予測有料会員化率が一番低い食べログでも1%くらいなので、Evernote の0.25%という有料会員化率は結構低い印象ですね。
逆にいうと、有料会員化率を4倍の1%に持ってこれれば、それだけで30億円の売上増につながります。全体の売上36億円から考えると、ほぼ2倍の売上になる計算ですね。これだけ売上があがれば、データがずっと残ることをユーザーに改めて約束しなければならない悲惨な状況からは、十分抜け出せるのではないかと思うのです。
では、どうすれば有料会員化率を4倍にできるのか…?それはもう、下手にビジネスに使えます、という中途半端なアピールを捨てて、趣味のためのデータ保存に特化したツールとして、Evernoteを進化させるのが一番だと思うのです。もともと、趣味の情報を保管しておくツールとしてもEvernoteは機能の相性がよく、趣味の情報を整理するのにEvernoteを使っている、というブログは結構たくさん見つかります。
料理、旅行、登山、イラスト、etcと趣味を上げ始めるときりがないですが、どんな趣味にでも工夫次第で活用できる柔軟さがEvernoteにはあるので、そこをアピールポイントにしたほうが良いと思うのです。現状の機能に加えて、先に述べた機械学習などを用いたタグ付の自動化やキュレーション、レコメンドなどの機能、ゲーミフィケーション的な要素を強化すれば、趣味の情報を整理するツールとしては唯一無二のサービスになること間違いなしなのです。そうなると、特に日本においては、日本人特有の生真面目さや収集癖も手伝って、絶対にサービスとして再ブレイクするはずなのです。ここまで行けば、有料会員化率を4倍にするのはさして難しいことではないでしょう。
象は仲間を大切にすべし
経営者に取って従業員の解雇というのは辛い決断であることは間違いないですが、「自社を今後100年続く企業にしたい」という考えを持つ元CEOのフィル・リービン氏にとっては、2015年1月に行った従業員の解雇はとりわけ辛い選択だったと思います。
Evernoteのコスト構造はイマイチ情報がないので推測でしかないですが、恐らく従業員の解雇をする前に、できることがあったのではないかと思うのです。それは、SaaSのサービスを提供する全ての企業にとって共通の課題でもあると思いますが、データセンターにかかるコストを可能な限り減らすことです。
Evernote のセキュリティ概要によると、Evernoteはアメリカで2箇所のデータセンターを運用しているようですが、ここに結構莫大なコストがかかっているのではないかと推測しています。事実、ユーザー数が急激に増えて1億人を突破した2014年あたり、Evernoteが重くなった、という声は聞こえていて、Evernoteもその問題に対応すべく、Evernote の同期が 4 倍速くなりましたという記事にもある通り、「Evernote の設備も十数個のサーバから 700 個以上に増えて、複数のデータセンターを利用するようになりました。」とデータセンターの増強に努めていることが分かります。
しかし今や、巨大なインターネットサービスになればなるほど、インフラを自前で持つケースは減ってきている気がします。最近日本でもじりじりと人気を獲得してきているスマートフォン向け写真共有サービスのSnapchatや、もうすぐ日本でのサービス提供開始が噂される音楽のストリーミング配信サービスのSpotifyは、Google のデータセンターと同じ Google Cloud Platform を利用しています。どちらも1億人以上のユーザーを抱える巨大サービスで、規模でいうとEvernoteも同じくらいのところにあるはずです。
また、Evernote の新CEOのクリス・オニール氏は元Googleの出身。Google カナダの責任者を努めたり、Google の次世代技術の開発を担うGoogle X に参画していたりと、Googleの内側を知り尽くした人物なので、Evernoteが今後、何らかの大型の提携をGoogleと行う外堀はすでに埋まっているのではないかと推測してしまうわけです。
更に加えて言うならば、Googleとの連携は、データセンターとしてのGoogle Cloud Platform だけではありません。機械学習や人工知能の分野も、Googleは得意にしています。ついに囲碁の世界チャンピオンに勝ち越す知性を手に入れたAlphaGoを開発したDeepMindの人工知能に関する技術は、すでに様々なGoogleのサービスに組み込まれ、直近だとたった数ヶ月でGoogleのデータセンターの冷却システムを40%も効率化することに成功したと発表されています。この技術は、「AI・機械学習など破壊的技術を利用する」としているビジネス戦略とも合致しますし、あえて、「開発する」ではなく「利用する」と書いてあるあたりに含みを感じるのです。下手にサービス間の連携を図るような小手先のパートナー戦略ではなく、こういった根幹の技術分野での提携で、すでに50億を超えるというノートに蓄積された膨大な知識を、インテリジェントに分析・活用できる基盤としてのサービスに、進化して欲しいですね。
まとめ
Evernoteには思い入れも結構あり、調べると面白くて、ついつい長くなってしまいましたが、ここまで色々書いてきて、なんとなく思った今までのEvernoteと言う企業への感想を一言でまとめると、結論として感じたのは、
"エバーノートは企業として真面目過ぎた"ということです。
ユーザーの声に真摯に耳を傾けること自体はもちろん悪いことではないですが、過去のEvernoteからは特に、サービス展開の面でブレがあるようにも感じますし、法人向けビジネスとして成功したいという意図が未だに強く感じられます。
もういっそのことEvernote Business での法人顧客の開拓は諦めて、フリーミアムのモデルも採用して無料ユーザーには広告も出しながら、趣味性の高い分野で使っているユーザーが気持ちよく有料で使えるような機能に特化したサービスになるのが良いと思うのです。
これまでをけして忘れない象は、これからも賢く、そして遊び心のあふれる粋な象であって欲しいと切に願います。Evernoteが初めての「終わりを迎えるユニコーン」にならないことを祈っております。
参考:世界で台頭 巨大ベンチャー「ユニコーン」勢力図 | 日本経済新聞社
【2016/09/15追記】
なんと、「象は仲間を大切にすべし」でも指摘した、Evernote のインフラの Google Cloud Platform への移行ですが、なんと思ったより早く実現しましたね。昨日、発表が出ていました。これをきっかけに、離れてしまったユーザーをまた引き寄せる施策をどんどんと打ち出して欲しいものです。
- Evernote’s Future Is in the Cloud | Evernote 英語版ブログ
- よくある質問: Google Cloud Platform への移行について | Evernote 日本語ブログ
- Evernote、データインフラをGoogle Cloud Platformへ移行 | INTERNET Watch
- Evernote、ユーザーデータを「Google Cloud Platform」に移行へ | ITmedia